相続が開始した場合、まず遺言書があるかの確認が必要です。遺言書がある場合は、遺言書に従った相続をするのが原則です。

公正証書による遺言書の有無は、最寄りの公証役場に照会することができます。遺言書が自筆証書遺言又は秘密証書遺言による遺言書の場合には、家庭裁判所の検認の手続きが必要となります。また、それらの遺言書が封印されている場合には、家庭裁判所の開封の手続きが必要となります。公正証書による遺言書の場合には、これらの手続きは不要です。

遺言書がある場合

  • 公正証書遺言の場合 → 家庭裁判所の検認・開封手続は不要
  • 自筆証書遺言又は秘密証書遺言の場合 → 家庭裁判所の検認・開封手続が必要

遺言事項

民法等によって遺言をすることができる事項として以下のものが定められています。

  • ① 認知(民法781条2項)
  • ② 未成年後見人の指定(民法839条1項)
  • ③ 未成年後見監督人の指定(民法848条)
  • ④ 推定相続人の廃除および廃除の取消し(民法893条、894条)
  • ⑤ 祭祀に関する承継者の指定(民法897条1項)
  • ⑥ 相続分の指定又は指定の委託(民法902条)
  • ⑦ 特別受益者の持戻し免除(民法903条3項)
  • ⑧ 遺産分割方法の指定又は指定の委託と遺産分割の禁止(民法908条)
  • ⑨ 共同相続人間の担保責任に関する別段の意思表示(民法914条)
  • ⑩ 遺贈(民法964条)
  • ⑪ 遺言執行者の指定又は指定の委託(民法1006条)
  • ⑫ 遺贈の減殺方法の指定(民法1034条ただし書)
  • ⑬ 信託の設定(信託法3条2号)

遺言の種類

遺言の方式には、「普通方式」と「特別方式」があります。普通方式には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があり、特別方式には、死亡の危急に迫った人の遺言、船舶遭難者の遺言、伝染病隔離者の遺言、在船者の遺言があります。特別方式によって遺言をすることは非常に稀なケースですので、以下では普通方式の遺言について説明します。

① 自筆証書遺言(民法968条)

(ア) 方式

自筆証書遺言とは、遺言者がその全文、日付および氏名を自書して、押印した遺言書です。したがって、パソコン等で作成したり、代筆してもらったものは認められません。また、パソコン等で本文を作成し署名だけ自筆の場合も無効となります。自筆証書の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ効力がありません。

(イ) 注意事項
  • (a) 日付
    作成年月日のない遺言は無効です。年月の記載だけで日の記載のないものも無効です。
    日付は「還暦の日」とか「第何回目の誕生日」などはその日付が特定できるので認められますが、「平成何年何月吉日」のような日付が特定できないものは無効です。
  • (b) 氏名
    戸籍上の正しい氏名を書くのが原則です。しかし、氏と名を併せて書かなくても、氏又は名だけで遺言者本人が特定できるものであれば有効です。雅号又は通称名でも同じです。しかし、登記手続を考えると戸籍上の氏名を書いた方がよいでしょう。雅号や通称名を書いてあると、登記事項証明書に記録されている人物と遺言者が同一人であることを証明するのが困難となるからです。
  • (c) 住所
    自筆証書遺言において、住所を記載しなくても無効とはなりませんが、遺言者を特定するためにも住所を記載する方がいいと思われます。
  • (d) 押印
    遺言書に押す印に制限はなく、いわゆる実印や認印のほか、拇印でも認められます。しかし、不要な紛争を防ぐためにも実印を押し、また、遺言書が数枚になる場合には、各用紙の間に割印をしておいた方がよいでしょう。
  • (e) 検認
    公正証書による遺言以外の遺言の場合、その遺言書の保管者は、相続開始を知った後、遅滞なく、遺言者の最後の住所地の家庭裁判所で検認の手続きをしなければなりません。遺言書の保管者がいない場合において、相続人が遺言書を発見したときも同様です。検認は遺言の効力発生要件ではありませんが、検認を経ていない自筆証書遺言が申請書に添付された所有権移転の登記の申請は受理されません。
  • (f) 不動産の表示
    不動産の表示を遺言に記載する場合、登記事項証明書に記録されているように正しく書いた方がよいでしょう。例えば「自宅を妻に相続する」と書いても、それが登記申請された物件であるか判断が困難だからです。ただし、相続させる者が1人のみであれば「私の所有する不動産の全部を妻に相続させる」といった遺言にすることもできます。
  • (g) 「相続させる」の意味
    文字通り相続させる場合には、「〇〇に相続させる」と記載する方がよいでしょう。「〇〇にやる」「〇〇に与える」「〇〇にあげる」と記載した場合、それが「相続」なのか「遺贈」なのか判断が困難となるからです。

② 公正証書遺言(民法969条)

(ア) 方式

公正証書遺言とは、遺言者が公証人の面前で遺言の趣旨を述べて、公正証書で作成される遺言です。原則として遺言者が証人と共に公証役場に行かなければなりませんが、遺言者が病気等で公証役場に出向くことが困難な場合は、公証人に自宅や病院に来てもらうことも可能です。公正証書によって遺言をするためには以下の方式に従わなければなりません。なお、公正証書遺言は公証人の面前で作成し、原本は公証役場で保管されるため、変造等の危険がなく、家庭裁判所の検認は不要とされています。

  • (a) 証人2人以上の立会いがあること。
  • (b) 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
  • (c) 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者および証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
  • (d) 遺言者および証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合には、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
  • (e) 公証人がその証書は前各号に掲げる方式にしたがって作ったものである旨を付記して、これに署名し印を押すこと。

③ 秘密証書遺言(民法970条)

(ア) 方式

秘密証書遺言とは公証人や証人の前に封印した遺言書を提出して、遺言の存在は明らかにしながらも内容を秘密にして遺言書を保管することができる方式の遺言です。遺言書は自筆でも代筆でもパソコンで作成したものでもかまいませんが、署名と押印は遺言者が行うことが必要です。

秘密証書遺言は、次の方式に従わなければなりません。

  • (a) 遺言者が、その証書に署名し、押印すること。
  • (b) 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
  • (c) 遺言者が、公証人1人および証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名および住所を申述すること。
  • (d) 公証人が、その証書を提出した日付および遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者および証人と共にこれに署名し、印を押すこと。

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